【第2話】新米セラピストが学んだ「成功の法則」~1流の治療家になるための10のステップ~

僕は京都から戻ったあと、院に行く時間を30分早め、院の外を掃除し、院内の掃除にも時間をかけるようにした。
外ではタバコの吸殻が一番多かった。
通勤時間なので、重たい荷物を肩がけに持つ人や、今にもつまずきそうなハイヒールで歩く人、下を向きスマホを凝視している人、などなど様々な事を観察できている自分に気づく。
院内の掃除をしていると、エントランスにはほうきやちりとりがすぐ目に付く所にあったり、待合室からレジが見えたり、受付台にごちゃごちゃ書類や物が置いてあったりと、今まで気がつかなかったものが目に入るようになった。
施術室の壁に掛けてある資格証や技能修了証などが傾いていたり、トレーニングに使っていた鉄アレイやゴムバンドがむき出しに見えていた。
なるべく目に入らないように一掃してみた。
研修時代の「施術室は手術室と同じ、施す側も施される側も治療に専念出来る空間を作ることが大切。余計な雑念や気が散ってしまうような物は一切置くな!」を思い出した。
いつものように外の掃除を終え、鍵を開け靴を脱ごうとしたその時だった。
し、師匠!?
「おはようございまーす!」
「おう、おはよう♪」
確かに施術室の椅子に師匠が座り、スマホをいじっている。
えっ?「なんでいるんですか??」
師匠は僕に治療家としての厳しさや楽しさ、知識や技術だけでなく、人間として、男としての生き方を教えて頂いた言わば人生の師である。
急に背筋に緊張が走る。
「ほな、やろうか。わい見てるからいつも通りやろうや」
「あ、はい!」
え、ほな?師匠は言わないよな、そんなことはどうでもいい、こうして師匠が見ている中、いつもの時間がスタートした。
師匠に見られていると思うと…手が震えてしまう。
いつもとは違う順序で検査したり、いつもと違う治療をしたり、患者さんへの対応も普段とは異なった辿々しい話し方になったりした。
午前中に3人の施術を終えたその時、師匠が口を開いた。
「自分、赤点通り越して0点や。落第や、今すぐ閉院やな」
これにはグサッと胸を刺された気持ちになった。
何年も師匠の下で研修させてもらったり、寝食を共にしてもらったり、飲んだり遊んだりもした。
自分の成長も見せたかった。
この全否定にガクンと肩を落とすのはこの事だと思ったその時、今度は谷底に突き落とされる心境に立たされた。
「自分な、ほんまええ加減にせ~よ、お前に今までそんなこと教えたんちゃうぞ、人を診る言うことはな、どんな状況でも環境でも己の感情や気分はどうでもええねや、今、世界各国で戦争起きよるけど、そこにかけつける医師やナースもな、患者と一緒やねん。助けたい!助かりたい!それだけやねん。だからな、より、冷静に、より客観的に物事や状態診な助けられへんねん、その人救うこと出来へんねん。お前がな、ただの商売でこの仕事やってるならかまへんよ今のままで。でもな、今のお前がやってること、今すぐ命に関わる瞬間じゃないけどな、未来の命預かってんのやで!清水寺行ったやろ?何学んどんねん腹立つわ~」
「わいの友達の三波春夫は生前よう言うてた(お客様は神様や!)」
「これな、みんな意味はきちがいとんねん、お客様は神様だからなんでもお客様の言う通りにする意味ちゃうで、人間が人間に何かを伝えたり、施すっちゅうことはな、神様の前で、神聖な気持ちで行いをしますってことやで。自分がな、ご先祖様のお墓参り行って、墓の掃除したり、花をお供えしたり、線香炊いて手合わせたり、正月に初詣行って手合わせるようにするときと同じ気持ちや。そんな気持ちで患者に接せな言う事や!どんな環境や状況でもそこは変わらんのやて」
「もう腹減ったわ、また来るさかい」
ふっと師匠は目の前から消えた。
「ほな」「自分」「来るさかい」?
シーサーが化けとったんかい!?
はっ!僕までなまりが伝染った。
続く…。